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センターニュース 114 Vol.30 No.3,2011 分析機器解説シリーズ(114) 九州大学中央分析センター  三浦 好典 AES と XPS により分かること、出来ること 分析機器解説シリーズ(114) ◆AESとXPSにより分かること、出来ること …………………………… P1 九州大学中央分析センター 三浦 好典 (1) はじめに 1 1 固体表面分析の代表格であるオージェ電子分光法 (AES)とX線光電子分光法(XPS)は、試料の表面か ら高々10nm の深さまでに存在する元素の組成や化学結 合状態(単体と化合物との区別)に関する情報を提供す る。極表面だけの知見を得たい場合には有効な手法であ るため、金属・半導体材料、薄膜、無機・有機物質、触 媒などの多くの分野で活用されている。 当分析センターで所管するAES装置JAMP7800F ( 日 本 電 子 ) と XPS 装 置 AXIS165( 島 津 /Kratos) は15年前に設置されたが、ここ3年の間にコンピュー タシステムの更新を行った。XPSの更新(2008年) についてはソフトウエアの紹介を中心にすでにセン ターニュースで報告している[1]。AESの更新は今年 3 月 に 行 わ れ、OS が Unix か ら Red Hat Enterprice Linuxへ変更になった。コンピュータはハードディスク 250GB、RAM 2GB、クロック数3.2GHzの仕様に なり、CRTから液晶ディスプレイへと交換された。ま た、USB メモリーが使用可能となり画像データや Excel ファイルを簡単に保存出来るようになった。測定・解析 画面のデザインや内容は大雑把には従来とほとんど変化 がないので、以前からのユーザーにとっては抵抗をあま り感じることなく操作出来ると思われる。目新しい測定 手法として Spectral line profile と呼ばれる線分析方法 (後述)が加わった。 今回の更新を機にAESで何が出来て何が分かるのか を測定例を示しながら復習する。同時にXPSとの比較 も行いたい。数年前のセンターニュースでもスライド形 式でAESとXPSとを紹介している[2]。本内容との重 複も多いが合わせて参照して頂きたい。 電子発生機構について 2 2 物質に電子線を照射すると電子やX線が放出される。 電子放出のメカニズムは様々で、それに応じて放出電子の 呼び方が変わる。例えば、弾性衝突、非弾性衝突により飛 び出した電子はそれぞれ反射電子、2次電子と呼ばれる。 オージェ電子の発生機構はフランスの物理学者Pierre Auger(1899~1993)により発見され、図1に示す様 に少し複雑な過程を経て放出される。一方、X 線を物質に 照射することにより飛び出してくる電子を光電子と呼ぶ。

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Page 1: Center News 114 - 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)bunseki.kyushu-u.ac.jp/bunseki/media/114.pdf分析機器解説シリーズ(114) (2) (3) かる。低エネルギー側のSi単体はシャープな1本ピー

センターニュース

114Vol.30 No.3,2011

分析機器解説シリーズ(114)

九州大学中央分析センター 三浦 好典*

AESと XPSにより分かること、出来ること

分析機器解説シリーズ(114)

◆AESとXPSにより分かること、出来ること ……………………………P1

九州大学中央分析センター 三浦 好典*

(1)

は じ め に

電子発生機構について

AESによる種々の分析

アルミホイルのAESとXPS

ま と め

1

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固体表面分析の代表格であるオージェ電子分光法(AES)とX線光電子分光法(XPS)は、試料の表面から高々10nmの深さまでに存在する元素の組成や化学結合状態(単体と化合物との区別)に関する情報を提供する。極表面だけの知見を得たい場合には有効な手法であるため、金属・半導体材料、薄膜、無機・有機物質、触媒などの多くの分野で活用されている。

当分析センターで所管するAES装置JAMP7800F(日本電子)とXPS装置AXIS165(島津/Kratos)は15年前に設置されたが、ここ3年の間にコンピュータシステムの更新を行った。XPSの更新(2008年)についてはソフトウエアの紹介を中心にすでにセンターニュースで報告している[1]。AESの更新は今年3月 に 行 わ れ、OSがUnixか らRed Hat Enterprice Linuxへ変更になった。コンピュータはハードディスク250GB、RAM 2GB、クロック数3.2GHzの仕様になり、CRTから液晶ディスプレイへと交換された。また、USBメモリーが使用可能となり画像データやExcelファイルを簡単に保存出来るようになった。測定・解析

画面のデザインや内容は大雑把には従来とほとんど変化がないので、以前からのユーザーにとっては抵抗をあまり感じることなく操作出来ると思われる。目新しい測定手法としてSpectral line profileと呼ばれる線分析方法

(後述)が加わった。今回の更新を機にAESで何が出来て何が分かるのか

を測定例を示しながら復習する。同時にXPSとの比較も行いたい。数年前のセンターニュースでもスライド形式でAESとXPSとを紹介している[2]。本内容との重複も多いが合わせて参照して頂きたい。

は じ め に

電子発生機構について

AESによる種々の分析

アルミホイルのAESとXPS

ま と め

1

2

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1

2

3

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物質に電子線を照射すると電子やX線が放出される。電子放出のメカニズムは様々で、それに応じて放出電子の呼び方が変わる。例えば、弾性衝突、非弾性衝突により飛び出した電子はそれぞれ反射電子、2次電子と呼ばれる。オージェ電子の発生機構はフランスの物理学者Pierre Auger(1899~1993)により発見され、図1に示す様に少し複雑な過程を経て放出される。一方、X線を物質に照射することにより飛び出してくる電子を光電子と呼ぶ。

Page 2: Center News 114 - 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)bunseki.kyushu-u.ac.jp/bunseki/media/114.pdf分析機器解説シリーズ(114) (2) (3) かる。低エネルギー側のSi単体はシャープな1本ピー

分析機器解説シリーズ(114)

(2)

オージェ電子、光電子のエネルギーは元素固有の値を持っているため、それらの電子を検出することによって測定試料の組成分析が出来る。AESでは原理的に原子番号がリチウム以上の原子が測定対象元素になる。XPSでは原理的には水素、ヘリウムも測定対象になるが、これらは感度が極めて低く実質観測にかからない。従ってリチウム以上の原子が対象となる。

は じ め に

電子発生機構について

AESによる種々の分析

アルミホイルのAESとXPS

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測定試料にシリカ/シリコン基板(SiO2/Si基板、SiO2の厚さは約100nm)をもちいてAES装置で可能な種々の分析を行った。測定は電子プローブの加速電圧、電流量をそれぞれ10kV、10nAとし、試料ステージを30°傾けた状態で行った。

3―1.SEM像とAESスペクトル

AESスペクトル収集の前には必ず装置に組み込まれている走査電子顕微鏡(SEM)機能を使ってSEM像を観察しながら試料のどの場所を測定するかを決める。図2Aに示す様に倍率を1000倍にすると基板表面には凹凸がありゴミのようなものが付着しているのが見えてくる。像の中心付近で直径10μm領域をねらって測定したAESスペクトルを図2Bに示す。Siと酸素(O)はSiO2を反映したピーク、炭素(C)は表面に吸着した汚れ物質(コンタミ)に由来する。Siピークが低エネルギー側と高エネルギー側に出現するのは、

それぞれ別の電子軌道からオージェ電子が放出されたことに因る。AESピーク形状の特徴は、ギザギザで幅広い(100eV程度まで及ぶ)、という点にある。

どんな元素が試料表面に存在しているのかを押さえておくことが以下の様々な測定の出発点になる。

3―2.アルゴンスパッタと深さ方向分析

図3Aにアルゴンイオン(Ar+)スパッタを10数分間行った後取得したSEM像を示す。スパッタにより削られた部分が黒い四角の領域(サイズ400×550μm2程度)である。削った部分をねらって取得したスペクトル(図3B)にはSiのピークだけが観測されることから、下地のSiが露出していることが分かる。図4の様にSiピーク付近を拡大してみるとSiO2とSi単体の状態ではピーク形状がいくぶん異なることが分

図1 電子放出過程A:�オージェ電子の放出過程。(ⅰ)照射電子が内殻電子を励起して原子の外に放出、(ⅱ)放出された電子よりも外の軌道にいる電子が内殻軌道に移る、(ⅲ)その際、余分となったエネルギーによって外殻軌道の別の電子が励起され放出される。

B:光電子の放出過程。X線により電子が励起され原子の外に放出される。

図2 SiO2/Si基板のSEM像(A)とAESスペクトル(B)SEM像の倍率は1000倍で図中の赤いバーは20μmのスケール。スペクトルは電子プローブ径10μmで取得。

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分析機器解説シリーズ(114)

(2) (3)

かる。低エネルギー側のSi単体はシャープな1本ピークである。

上記のように連続して試料表面を削るのではなく、少しずつ削ってはその都度スペクトル収集を行って、深さ方向の組成分析をすることもできる。スペクトル収集→15秒間スパッタ→スペクトル収集→15秒間スパッタ→・・・のサイクルを繰り返して測定したスペクトル群を図5Aに示す。また、depth profile(ピーク強度をスパッタ時間に対してプロット)を図5Bに示す。3分のスパッタでOが著しく減少し同時にSi単体が急激に立ち上がり始めるが、これはSiO2とSiの界面が露出してきていることを表す。SiO2の厚みが約100nmなのでこのプロファイルからスパッタ速度が約30nm/minと見積もられる。一方、Cは表面に吸着しているだけなので1回のスパッタで消滅する。

3―3.線分析と面分析

先に述べたようにSpectral line profileと呼ばれる線分析が出来るようになった。測定手順は、(ⅰ)

SEM像を使って分析したい一方向を指定、(ⅱ)その直線に沿って等間隔で分析位置をずらしながらスペクトルを収集、(ⅲ)それらのスペクトルを基にプロファイル(ピーク強度を分析位置に対してプロット)を作る、というものである。それぞれの分析位置でのスペクトルデータが保存されるという点がSpectral line profileの特徴である。以前のline profileではプロファイルのみが取得されスペクトルは保存されなかった。

SiO2/Si基 板 の ス パ ッ タ さ れ た 部 分 と さ れ ない部分の境界領域のSEM像(図6A)に基づき、Spectral line profile分析を行った。取得したスペクトル群を図7Aに示す。64点のデータで構成されており、最下段がSEM像の左端、最上段が右端のスペクトルである。はじめは下地のSi単体だけが観測されているが分析点を移動してゆくと今度はSi単体のピークが消えてSiO2由来のOが観測される。プロファイル

(図7B)が示す様にスパッタの境界で元素の分布が急激に変化している。

面分析は線分析を拡張した分析でありマッピングあ

図3 スパッタ後のSiO2/Si基板のSEM像(A)とAESスペクトル(B)SEM像の倍率は80倍で図中の赤いバーは200μmのスケール。スペクトルは電子プローブ径10μmで取得。

図4 Si単体(赤)とSiO2(青)とのAESスペクトルの比較A:低エネルギー側のSiピーク。 B:高エネルギー側のSiピーク。

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図6 SiO2/Si基板のSEM像(A)とマッピング像(B) スパッタされた部分とされていない部分の境界領域。倍率300倍で図中の赤いバーは50μmのスケール。測定後には電子プローブの跡(矢印)がSEM像に写ることがある。中央に写っている横線はSpectral� line�profile測定後ついた跡。直径50μm程度の円い変色部分はプローブ径50μmでスペクトルを収集後ついた跡。

図7 SiO2/Si基板のSpectral line profile分析A:�スペクトルの場所依存性(SiとOのピーク領域)。最下段は図6のSEM像の左端の位置、最上段はSEM像の右端の位置に対応する。

B:line�profile。Si単体とOのピーク強度をプロット。

図5 SiO2/Si基板の深さ方向分析A:�AESスペクトルのスパッタ時間依存性(Si、C、Oのピーク領域)。最下段がスパッタ前のスペクトル、最上段がトータル6分間のスパッタ後のスペクトル。

B:デプスプロファイル。Si単体、C、Oのピーク強度をプロット。

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るいはイメージングと呼ばれる。元素の空間分布を2次元的に知ることが出来、視覚的にも鮮やかなデータが得られる。図6Bは図6Aに対応するマッピング像である。Oの存在する領域は赤、そうでない部分は暗い色で区別されている。

は じ め に

電子発生機構について

AESによる種々の分析

アルミホイルのAESとXPS

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測定試料は市販のアルミ(Al)ホイルから5mm角程度を切りとったもの用いた。測定を始める前、Alホイルの表面の汚れを除去するために半日程度アセトン中に浸しておいた。はじめにAES測定を行い、2週間後に同じ試料を用いてXPS測定を実施した。

4―1.AES測定

図8AはAlホイルのSEM像であり、縞や凹凸が観察されている。図中の×印と矢印1、2の指している

黒点はAESスペクトルの測定位置を示す。×印を中心に直径20μmを分析領域とするスペクトルを図8Bに示す。スペクトルにはOとAlのピークが観測されておりAlホイルの表面が酸化していることが確認できる。また、強度は弱いがコンタミ由来のCピークも観測されている。一方、矢印1の黒点を狙って収集したスペクトルが図8Cである。Alピークが全く現れず、カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)、マグネシウム

(Mg),塩素(Cl),硫黄(S)、窒素(N)、Oが観測されている。またCピークも強く出ている。従って、この黒点は不純物であることが分かる。この黒点の近傍の3ヶ所と矢印2の黒点の測定を行ったが全てAl酸化物を反映するスペクトルが得られた。この結果から黒く写っている部分がいつも不純物であるとは限らないことが云える。

これらの測定場所から数百μm離れた所にも黒い部分(図9A)を見つけたのでスペクトル収集を行った。

図8 AlホイルのSEM像(A)とAESスペクトル(B、C)A:�SEM像は倍率1000倍で、図中の赤いバーは20μmのスケール。B:SEM像の×印をねらい電子プローブ径20μmで取得。C:矢印1の指す黒点部をねらって電子プローブ径約0.2μmで取得。

図9 AlホイルのSEM像とマッピング像 倍率5000倍で図中の赤いバーは4μmのスケール。A:SEM像。黒く写っている部分は長さ4μm弱の不純物。B-D:�不純物近傍のマッピング像。B、C、DはそれぞれAl、Ca、Clの濃度が高い部分ほど明るい色で表示されている。

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その結果、先と同様な元素を含む不純物であることが判明した。このSEM像に対応するマッピング像を図9B~Dに示す:(B)はAl、(C)はCa,(D)はClの分布。SEM像の黒い部分がCaやClの元素を含んだ不純物であることが視覚的に分かる。

次にスパッタを行い不純物が削り取れるかどうかを調べた。図10A,Bにスペクトルのスパッタ時間依存性を示す(0,60,90はスパッタ時間(秒))。A、Bはそれぞれ不純物部分と不純物を外した部分に対応する。図10Aよりスパッタ時間を長くしてゆくと不純物由来のピーク強度が減少し、代わりにAlのピークが出現してくることが分かる。一方、図10Bを見ると、60秒のスパッタによりOピークがほとんど消えAlピークのみが観測されている。このことはAl単体

(Al metal)が表面に露出していること示している。スパッタ速度を考慮すると、表面のAl酸化物の厚さは数10nm程度と思われる。

4―2.XPS測定

XPS測定ではX線源としてモノクロメーターにより単色化されたAl Kα線を用いた。分析場所はCCDカメラの画像を見ながら先のAES測定でスパッタされた部分にX線が当たるように調節した。CCDカメラは高々100倍程度の倍率でコントラストもきれいにつかないので数μmサイズの不純物の観測は不可能であり、この点でXPSの空間分解能はAESより低い。測定では試料表面1mm2程度の領域から発生した光電子を検出するモードを適用した。また、チャージアップ軽減のために中和銃を測定中作動させた。測定手順として、はじめにエネルギー幅1400eV程度の広範囲に渡るスペクトル(wideスペクトル)を収集

しどんな元素が表面に存在しているのかを調べる。次に注目したい元素の電子軌道を選んで狭いエネルギー範囲のスペクトル(narrowスペクトル)を収集し結合状態を調べる。

図11にAlホイルのwideスペクトルを示す。Al、O、Ar、コンタミのCが観測されている。OとAlが同時に観測されていることから表面が酸化されていることが分かる。試料を保管している間に酸化が進行したのであろう。ArはAES測定でのスパッタに起因する。また、不純物の元素として約1300eVにMg 1sのごく弱いピークが観測されているが、Ca、Na、Clなどは観測されていない。この原因は元素の感度にあると思われる。不純物の元素のなかでMg 1sは最も感度が

図10 AESスペクトルのスパッタ時間依存性A:�不純物。B:酸化Al部分。0、60、90はスパッタ時間(秒)を表す。スペクトルは電子プローブ径0.2μmで取得。

図11 Alホイルのwideスペクトル スペクトルからどの元素のどの電子軌道から放出された電子かという情報が得られる。オージェ電子のピークも観測されるが、電子放出のメカニズムは励起源がX線というだけで電子ビームの場合と同じである。

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良い[3]。次に、C 1s軌道とAl 2p軌道のnarrowスペクトル

を図12に示す。XPSピークはAESピークとは異なり半値幅が1eV程度のシャープなピークであることが分かる。C 1sではC-HとC-C結合由来のピークとCOO結合由来のピークの2本が観測されている。この結果はOもコンタミ成分の一つであり、従って、Oピークはコンタミからの寄与もわずかながらある(Al酸化物の寄与が圧倒的だが)ことを示唆する。一方、Al 2pでは酸化物とAl単体(Al metal)のピークが分離して出現している。このことから、表面には酸化物と単体が混在していることが分かる。酸化物とmetalのような化学結合状態の違いによるエネルギーのずれ

をchemical shiftと云う。XPSピークとの比較をするためにAl酸化物とAl

metalに お け るAlのAESピ ー ク を 図13に 示 す。AESピーク形状はAl metalのほうが比較的シャープで低エネルギー側は非対称な1本ピーク、という点でAl酸化物と区別できる。しかし、2種類のAlが表面に混在している場合はピークの明確な区別やピーク強度の違いの見きわめが非常に困難である。結合状態の区別はXPSがはるかに有効である。

は じ め に

電子発生機構について

AESによる種々の分析

アルミホイルのAESとXPS

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SiO2/Si基板とAlホイルのAESとXPSの測定例を

図13 Al酸化物とAl単体のAESスペクトルA:低エネルギー側のAlピーク。B:高エネルギー側のAlピーク。

図12 C 1sとAl 2pのnarrowスペクトル

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分析機器解説シリーズ(114)

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示した。XPSでは深さ方向分析、線・面分析の測定例は示さなかったがもちろん測定可能である。

AESでは試料のSEM像観察を行いながら数100nm~100μmサイズの微小部をねらって測定できるという利点がある。一方、XPSでは化学結合状態の特定に威力を発揮する。加えて、XPSには中和銃が搭載されているため、絶縁物でも容易に測定できる利点がある。こういったAESとXPSの特徴は相補関係にあり、試料の特性や研究目的に応じて使い分けることが必要である。

近年のAES、XPS装置の改良や開発はそれぞれの不得意分野をなくす方向で進んでいる。最新のAES装置には中和銃(Ar+を低加速度で打ち込む)が搭載されている。結合状態の特定には、様々な化合物のスペクトルのデータベースをあらかじめ用意しておいて実際の試料のスペクトル形状と比較する方法がとられている。一方、XPSの最新機には特殊な2次元ディテクターが搭載されており、マッピングや微小領域データの収集が短時間で可能になっている。

最後に、もっと詳しくAESとXPSについて知りたい方のために標準的な参考書を[3]~[9]に挙げる。また、当センターには実際に装置を動かしてデータを取得したい方のために、メーカーが作成した装置の取扱説

明書や我々が独自に作成した詳細なマニュアル(日本語と英語版)とDVDを用意している。

参考文献[1] センターニュース 105 vol. 28,No. 3(2009)。

[2]センターニュース 102 vol. 27,No. 4(2008)。    [1]、[2] のPDFフ ァ イ ル はhttp://www.bunseki.

cstm.kyushu-u.ac.jp/F/f1.htmlよりダウンロード出来る。

[3]日本表面学会編 X線光電子分光法、丸善(1998)。

[4] 志水隆一、吉原一紘 編 ユーザーのための実用オージェ電子分光法、共立出版(1989)。

[5] 日本表面学会編 オージェ電子分光法、丸善(2001)。

[6] 吉原一紘、吉武道子 著 表面分析入門 裳華房 (1997)。

[7] 大西孝治、堀池靖浩、吉原一紘 編 固体表面分析Ⅰ 講談社サイエンティフィク(1995)。

[8] J. F. Watt, J. Wolstenholme著 An Introduction to Surface Analysis by XPS and AES, Wiley(2003)。

[9] D. Briggs, M. P. Seah 編 Practical Surface Analysis Vol. 1 Auger and X-ray Photoelectron Spectroscopy, Wiley(1996)。

*E-mail:[email protected] Tel:092-583-7214

九州大学中央分析センター(筑紫地区)〒816-8580 福岡県春日市春日公園6丁目1番地TEL 092-583-7870/FAX 092-593-8421

九州大学中央分析センター伊都分室(伊都地区)〒819-0395 福岡市西区元岡744番地TEL 092-802-2857/FAX 092-802-2858

九州大学中央分析センターニュース

ホームページアドレス  http://www.bunseki.cstm.kyushu-u.ac.jp

第114号 平成23年10月25日発行

 中央分析センターでは、全学的な分析機器の共同利用の一層の充実を図るため、随時「登録装置」を募集しています。

登録装置 Q and A●利用料金は?/各研究室で自由に設定できます。全額研究室に移算されます。●利用料金の計算は?/利用料金の計算及び移算手続きは分析センターが代行します。●装置の設置場所は?/現在設置されている場所です。移動する必要はありません。●負担が大きくなるのでは?/負担分を考慮して、利用経費を設定して下さい。●面倒では?/否定はできませんが、全学的視点から装置が効率的に利用でき、学内の相互協力の実現というメリット

をご考慮いただければ幸いです。

●手続きは?/登録装置システムにご賛同いただけましたら、「装置登録依頼書」(用紙はダウンロードするか、センターに要求して下さい)に必要事項をご記入の上、分析センターへお送りいただくだけです。

登 録 装 置 募 集 中 で す登 録 装 置 募 集 中 で す