肝細胞特異性mri造影剤(gd-eob-dtpa)を用いた 肝細胞癌画像 …

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(11) 肝細胞特異性 MRI 造影剤(Gd-EOB-DTPA)を用いた 肝細胞癌画像診断 西 要旨:画像診断装置の性能向上および造影剤の進歩により,肝細胞癌の画像診断は近年飛躍的に進歩し た.2008 年 1 月に肝細胞特異性造影剤である God-EOB-DTPA(gadolinium ethoxybenzyl dieth- lenetriamine pentaacetic acid,ガドキセト酸ナトリウム;EOB・プリモビスト )が本邦で発売さ れ,約 2 年が経過した.肝細胞機能評価のみならず,これまでの細胞外液性 MRI 造影剤の性能を併せ 持っているために 1 回の検査で血流評価と肝細胞機能評価が同時に可能となり,肝細胞癌の診断,特 に境界・前癌病変と癌との鑑別においてその有用性が期待される. 索引用語:肝細胞癌,EOB,MRI はじめに 肝 細 胞 特 異 性 造 影 剤 で あ る Gd-EOB-DTPA (gadolinium ethoxybenzyl diethlenetriamine pen- taacetic acid,ガドキセト酸ナトリウム;EOB・ プリモビスト ,以 下,EOB)が 2008 年 1 月 本 邦で発売され,約 2 年が経過した.EOB の最大 の特徴は,従来の細胞外液性 MRI 造影剤の特徴 を保ちつつ,肝細胞特異性造影剤の特徴も併せ持 つ点である.すなわち,従来の細胞外液性 MRI 造影剤と同様にダイナミック撮像による血流情報 の評価が可能であることに加え,肝細胞相での肝 細胞機能評価が可能である.肝細胞相では正常肝 細胞には EOB が取り込まれるのに対し,多くの 腫瘍性病変では EOB が取り込まれないため,背 景肝実質と腫瘍性病変とのコントラストが向上 し,肝腫瘍の局在診断が可能となる.このような 特徴から,肝腫瘍性病変の検出および鑑別診断を 行う上で,その有用性が期待されている. 肝細胞癌の診療において,慢性ウイルス性肝炎 患者など high-risk 症例に対しては,EOB が発売 されるまでは腹部超音波やダイナミック MDCT (multidetector-rowCT),Gd-DTPA(gadolinium diethylenetriamine penta-acetic acid)を用いた ダイナミック MRI,網内系細胞特異性造影剤で ある SPIO(superparamagnetic iron oxide parti- cles) -MRI,CTAP(CT during arterial portogra- 今月のテーマ●消化器疾患診療の新しいモダリティー 1)京都府立医科大学大学院放射線診断治療学 2)JR 大阪鉄道病院放射線科 3)JR 大阪鉄道病院消化器内科 4)京 都府立医科大学大学院消化器内科学 MR imaging of hepatocellular carcinoma using hepatocyte-specific contrast agent Gd-EOB-DTPA Osamu TANAKA, Tsunehiko NISHIMURA, Takuji YAMAGAMI , Yusuke ICHIJO, Hiroyuki OUCHI, Koji OHNO , Yasuhide MITSUMOTO, Takahiro MORI and Toshikazu YOSHIKAWA 1)Department of Radiology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, 2)Depart- ment of Radiology, Osaka Railway Hospital, 3)Department of Gastroenterology, Osaka Railway Hospital, 4)Depart- ment of Molecular Gastroenterology and Hepatology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine Corresponding author:田中 治([email protected]日消誌 2010;107:703―711

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肝細胞特異性MRI 造影剤(Gd-EOB-DTPA)を用いた

肝細胞癌画像診断

田 中 治 西 村 恒 彦 山 上 卓 士1)

一 条 祐 輔 大 内 宏 之 大 野 浩 司2)

光 本 保 英 森 敬 弘3) 吉 川 敏 一4)

要旨:画像診断装置の性能向上および造影剤の進歩により,肝細胞癌の画像診断は近年飛躍的に進歩した.2008年1月に肝細胞特異性造影剤であるGod-EOB-DTPA(gadolinium ethoxybenzyl dieth-lenetriamine pentaacetic acid,ガドキセト酸ナトリウム;EOB・プリモビストⓇ)が本邦で発売され,約2年が経過した.肝細胞機能評価のみならず,これまでの細胞外液性MRI 造影剤の性能を併せ持っているために1回の検査で血流評価と肝細胞機能評価が同時に可能となり,肝細胞癌の診断,特に境界・前癌病変と癌との鑑別においてその有用性が期待される.

索引用語:肝細胞癌,EOB,MRI

はじめに肝細胞特異性造影剤である Gd-EOB-DTPA

(gadolinium ethoxybenzyl diethlenetriamine pen-taacetic acid,ガドキセト酸ナトリウム;EOB・プリモビストⓇ,以下,EOB)が 2008 年 1 月本邦で発売され,約 2 年が経過した.EOB の最大の特徴は,従来の細胞外液性 MRI 造影剤の特徴を保ちつつ,肝細胞特異性造影剤の特徴も併せ持つ点である.すなわち,従来の細胞外液性 MRI造影剤と同様にダイナミック撮像による血流情報の評価が可能であることに加え,肝細胞相での肝細胞機能評価が可能である.肝細胞相では正常肝細胞には EOB が取り込まれるのに対し,多くの

腫瘍性病変では EOB が取り込まれないため,背景肝実質と腫瘍性病変とのコントラストが向上し,肝腫瘍の局在診断が可能となる.このような特徴から,肝腫瘍性病変の検出および鑑別診断を行う上で,その有用性が期待されている.

肝細胞癌の診療において,慢性ウイルス性肝炎患者など high-risk 症例に対しては,EOB が発売されるまでは腹部超音波やダイナミック MDCT

(multidetector-row CT),Gd-DTPA(gadoliniumdiethylenetriamine penta-acetic acid)を用いたダイナミック MRI,網内系細胞特異性造影剤である SPIO(superparamagnetic iron oxide parti-cles)-MRI,CTAP(CT during arterial portogra-

今月のテーマ●消化器疾患診療の新しいモダリティー

1)京都府立医科大学大学院放射線診断治療学 2)JR 大阪鉄道病院放射線科 3)JR 大阪鉄道病院消化器内科 4)京都府立医科大学大学院消化器内科学MR imaging of hepatocellular carcinoma using hepatocyte-specific contrast agent Gd-EOB-DTPAOsamu TANAKA, Tsunehiko NISHIMURA, Takuji YAMAGAMI1), Yusuke ICHIJO, Hiroyuki OUCHI, Koji OHNO2),Yasuhide MITSUMOTO, Takahiro MORI3)and Toshikazu YOSHIKAWA4)

1)Department of Radiology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, 2)Depart-ment of Radiology, Osaka Railway Hospital, 3)Department of Gastroenterology, Osaka Railway Hospital, 4)Depart-ment of Molecular Gastroenterology and Hepatology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural Universityof MedicineCorresponding author:田中 治([email protected]

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phy)�CTHA(CT hepatic arteriography)により,肝細胞癌の有無やその血行動態の診断が行われてきた.しかしながら多血性病変の場合には肝細胞癌と動脈-門脈シャント(arterio-portal シャント,以下 A-P シャント)などの偽病変との鑑別が,乏血性病変の場合には異形性結節(DN:dysplastic nodule)と早期肝細胞癌との鑑別が困難である症例が存在し,その治療のタイミング決定に苦慮することがしばしば存在することも事実である.

本稿では,われわれの臨床経験を中心に,EOBの有用性およびその可能性について述べる.

I 肝細胞癌の発癌機序肝細胞癌は慢性肝炎や肝硬変を背景として,de

novo 発癌1)と,多段階発育による発癌経路2)が提唱されている.後者においては現在,再生結節

(RN;regenerative nodule)から DN を経て肝細胞癌に至るという概念が広く受け入れられている3).特に本邦では,RN から軽度異形性結節

(LGDN;low-grade dysplastic nodule),高度異形性結節(HGDN;high-grade dysplastic nod-ule),早期肝細胞癌,nodule-in-nodule type の肝細胞癌(HGDN 結節内部に高分化型肝細胞癌が混在したもの),高分化型肝細胞癌,高分化型肝細胞癌と中分化型肝細胞癌との混在を経て,いわゆる古典的肝細胞癌へと進展していく概念が広く受け入れられている4).臨床の場において特に問題となるのは多段階発育による発癌で,肝細胞性結節を発見した場合に,どの段階が前癌病変であるか判断し厳重な経過観察を行っていくことが必要となる.肝細胞性結節を生検診断し経過観察した 報 告5)で は,RN の 9.1%,LGDN の 26.2%,HGDN の 69.2% が肝細胞癌に進行しており,肝細胞性結節の中でも DN は前癌病変であると述べている.しかし,日本肝臓学会編集の肝癌診療マニュアル6)および米国肝臓学会のガイドライン7)においても,DN は治療対象にはならないという見解を提唱しており,DN と早期肝細胞癌との鑑別は,治療適応を決定する上で非常に重要である.

II 肝細胞癌の画像診断の現状肝細胞癌の画像診断においてのいちばんの問題

は,RN や DN といった境界・前癌病変と早期肝細胞癌の鑑別が可能か否かという点である.肝細胞性結節の血流を CTAP�CTHA により検討した報告8)では,結節の悪性度は動脈血流・門脈血流と強い相関があることが示された.すなわち,RNの段階では正常肝実質と同様に門脈血流支配優位であるが,悪性度が高くなるにつれ門脈血流の低下とこれにともなう異常動脈血流の増加が見られ,中低分化型肝細胞癌に進行すれば門脈血流は消失し動脈血流支配のみになるというものである.DN と早期肝細胞癌との鑑別に有用である半面,血管造影の手技を用いた検査であるため侵襲が強いこと,短期間ではあるが入院を要するためスクリーニング検査としては行いにくいのが欠点であると思われる.一方で,網内系細胞特異性MR 造影剤である SPIO を用いた検討9)では,DNと高分化型肝細胞癌との鑑別は困難であると報告されている.これは DN と高分化型肝細胞癌の単位面積あたりに存在する Kupffer 細胞数には有意差がないという病理学的検討10)によっても裏付けられる.

これまでは肝細胞性結節の血行動態や網内系細胞機能,もしくはその双方という観点から,CTAP�CTHA8)や MRI9)11),造影超音波12)13)といったさまざまなモダリティーを用いた検討が行われてきた.これらの手法により,中低分化型肝細胞癌の検出・診断という点に関しては満足のいく結果が得られている.しかし,境界・前癌病変と早期肝細胞癌との鑑別や 1cm 以下の微小肝細胞癌の診断という点に関しては,日常検査として使用できるような範囲の検査において,必ずしも満足のいく結果が得られていないのが現状であると思われる.このような状況の中,2008 年 1 月から肝細胞特異性 MRI 造影剤である EOB が発売され,約 2 年が経過した.本邦での臨床試験の報告も含め,EOB は肝腫瘍性病変の検出に優れていることが多数報告14)~18)されている.この理由として,肝細胞相では正常肝細胞には EOB が取り込まれるのに対し,多くの腫瘍性病変では EOB が取り込まれないため,背景肝実質と腫瘍性病変とのコントラストが向上し肝腫瘤性病変の検出能がより

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高くなることが考えられる.肝細胞機能の評価だけでなく,EOB は従来の細胞外液性造影剤の性質も併せ持っているために血行動態の評価も併せて可能であるため,肝細胞性結節の質的診断を行う上でその有用性が期待されている.

III EOBの薬物動態EOB は細胞外液に非特異的に分布する MRI 用

造影剤であるガドペンテト酸(Gd-DTPA)に,脂容性側鎖であるエトキシベンジル基エトキシベンジル基が導入された構造を有しており,T1 強調画像においてガドリニウムイオンによる信号増強効果を示す.また,静脈内投与後,血管内および細胞間隙に非特異性に分布したのち,エトキシベンジル基の導入により肝細胞に特異性に取り込まれる.肝細胞に取り込まれた EOB は胆汁排泄を経て,糞中に排泄される.

バイエル薬品社の社内資料19)によると,健常成人男子に EOB 0.1mL�kg を静脈内投与したとき,投与量の約 6 割は尿中に,約 4 割が糞中に排泄される.一方,肝障害患者に投与した場合には,軽度から中等度肝障害(Child-Pugh grade A および grade B)患者では EOB の糞中排泄は 21%と健常男性に比して低かったが,有意な肝実質の信号増強効果の減弱は見られなかった.重度肝障害患者(Child-Pugh grade C)では,EOB の糞中排泄は 6% まで低下した.さらに血清ビリルビン値が 3mg�dL を超えた患者では EOB の糞中排泄は 0.5% 未満に低下し,肝実質の信号増強効果の減弱が見られた.また,Motosugi ら20)は,EOB肝細胞相での肝実質の造影効果の強さは,ICG 15分値ならびに Child-Pugh grade と相関が見られたと報告している.このことから,重度肝機能障害患者や高ビリルビン血症患者に対して EOB を使用する際には注意が必要である.IV 乏血性肝細胞癌の診断におけるEOBの役割

EOB に関するこれまでの報告では,限局性肝病変の検出能においては優れた成績が多数報告されている14)~18).肝細胞癌の検出能という点に関しては,EOB-MRI と MDCT を用いたダイナミック CT21)および EOB-MRI と SPIO-MRI22)と比較し

た検討では病変検出率に有意差は認められていない.しかしながら,1cm 以下の微小病変の検出に関しての有用性が期待されている21).

肝細胞性結節の中でも,LGDN や HGDN,早期肝細胞癌の大部分は乏血性結節である23).したがって肝細胞癌の早期発見で最も重要な点は,乏血性肝細胞性結節が認められた場合に果たしてそれが境界・前癌病変なのか,それとも癌であるのかを鑑別することである.この点に関しては肝細胞性結節の血行動態と網内系細胞機能という点からさまざまな検討が行われてきたが8)9)11)~13),境界・前癌病変と早期肝細胞癌との間で画像所見がオーバーラップするものが存在するため,満足のいく結果が得られていない.

一方,EOB は正常の肝細胞機能を有する結節には取り込まれるが,肝細胞機能を失った結節には取り込まれないと考えられている.このため境界・前癌病変と肝細胞癌との鑑別に対する EOBの可能性が強く期待されている.しかしながらEOB 肝細胞相で EOB の取り込みの見られない,もしくは EOB の取り込みが背景肝よりも低下した肝細胞性結節はすべて肝細胞癌であるとする報告24)がある一方で,肝細胞癌に EOB の取り込みがあったという報告25)26)も存在し,境界・前癌病変と肝細胞癌との鑑別には生検を行わざるを得ない状況であると推測される(Figure 1,自験例).Narita らの病理組織学的検討26)では,肝細胞癌への EOB の取り込みは細胞の分化度や胆汁産性能とは関連がなく,細胞内の OATP(organic aniontransporter)1B3 の発現レベルと関連があったと報告されている.今後は DN の病理組織学的検討,すなわち DN で EOB を取り込まないものが存在するか否か,存在した場合に EOB を取り込む DN 結節との OATP1B3 発現レベルの比較検討などが期待される.V 多血性肝細胞癌の診断におけるEOBの役割

多血性肝細胞癌の診断において,ダイナミックCT やダイナミック MRI の検出感度は非常に高く,肝癌診療ガイドライン(2005 年版)においてもグレード A で推奨されている27).わが国に

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Figure 1. 78歳,女性.高分化型肝細胞癌,DN疑い症例 a:CTAP,b:CTHA早期相,c:CTHA後期相,d:MRI 脂肪抑制T2強調画像,e:MRI T1強調画像(in-phase),f:MRI T1強調画像(out-of-phase),g:EOBダイナミックMRI動脈相,h:EOBダイナミックMRI平衡相,i:EOBダイナミックMRI肝細胞相. CTHA早期相で肝S6に動脈血流の低下した結節を2カ所(白矢印,白矢頭)認める.CTAPで双方の結節の門脈血流低下は認めない.造影前MRIのT1強調画像でいずれの結節も同定できないが, 脂肪抑制T2強調画像では双方とも背景肝より低信号を呈している.EOBダイナミックMRI動脈相ではいずれの結節も背景肝と同等の信号強度を呈している.下大静脈近傍の結節(白矢印)は,EOBダイナミックMRI平衡相で背景肝より低信号を呈し,肝細胞相でもEOBの取り込み低下が見られた.生検の結果,高分化型肝細胞癌であった.外側の結節(白矢頭)はEOBダイナミックMRI平衡相で背景肝実質と等信号を呈しており,肝細胞相でEOBの取り込みが認められた.こちらは超音波で同定できず生検が不可能であったため,DNの臨床診断のもと,経過観察中である.

おいては肝細胞癌発症の high-risk 群は大部分が慢性ウイルス性肝硬変患者であるが,肝硬変患者において多血性肝細胞癌の診断を行う上で何よりも大きな問題となるのは,A-P シャントなどの多血性偽病変(HPL;hypervascular pseudolesion)との鑑別である.肝移植により摘出した全肝標本と術前ダイナミック MRI とを比較検討した報告11)では,ダイナミック MRI 動脈相のみで造影され,門脈相や平衡相・T2 強調画像では周囲肝実質と等信号を呈する 2cm 以下の結節の大部分

(93%)は多血性肝細胞癌ではなかったという結果であった.さらに,動脈相で造影された領域の形状は,楔形よりも卵円形のほうが多かったという結果であった11).このことから,微小な肝細胞癌を診断する上で,動脈相での造影効果の形状による,多血性肝細胞癌と HPL との鑑別は困難であることを示唆している.多血性肝細胞癌と HPLとの鑑別においては,これまでシングルレベルダイナミック CTHA28)や CTAP�CTHA29)にて検討されてきた.非常に有用である反面,いずれも血

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Figure 2. 80歳,男性.肝細胞癌門脈腫瘍栓(P8)症例 a:CTAP,b:CTHA早期相,c:CTHA後期相,d:MRI脂肪抑制T2強調画像,e:EOBダイナミックMRI動脈相,f:EOBダイナミックMRI肝細胞相. 肝S8下大静脈近傍にCTAPでperfusion defect,CTHA 早期相で全体が強く造影され,後期相でコロナ様濃染を呈する結節を認める(白矢頭).典型的な中低分化型肝細胞癌の所見である.この結節は造影前MRI脂肪抑制T2強調画像で背景肝より高信号を呈し,EOBダイナミックMRI動脈相で全体が強く造影され,肝細胞相でEOBの取り込み低下を認める.一方肝S8には,EOBダイナミックMRI動脈相で全体が強く造影され,肝細胞相でEOBの取り込み低下を呈する結節を認める(白矢印).CTHA早期相では肝S8全域が楔形に造影され,EOBダイナミックMRI動脈相で強く造影される結節に一致した,非常に強く造影される結節(白矢印)を認める.CTAPでは門脈P8枝の描出は認められず,肝S8の一部に比較的広範な門脈血流低下域を認める.門脈腫瘍栓をともなった中低分化型HCCの所見であり,門脈腫瘍栓によるA-Pシャントの存在を反映している.なお,EOB肝細胞相ではA-Pシャント部に一致したEOBの取り込みが見られ,腫瘍の存在範囲がCTAP/CTHAと比較して明瞭に描出されている(なお,この症例は右肝動脈が上腸間膜動脈から分岐していたため,右肝動脈よりCTHAを施行).

管造影の手技を用いた検査であるため,侵襲の大きさや患者被曝が問題とされてきた.

近年,Sun らは EOB が正常肝細胞に取り込まれることを利用して,EOB 肝細胞相は多血性肝細胞癌と HPL との鑑別に有用であることを報告している30).すなわち,2cm 以下の肝多血性病変を診断する上で,EOB 肝細胞相において多血性肝細胞癌の大部分には EOB が取り込まれないため周囲肝実質よりも低信号を呈する反面,HPLには正常肝細胞が存在するため EOB が取り込まれ,周囲肝実質と等信号を呈するというものである.Figure 2, 3 はいずれもわれわれが経験したA-P シャントの症例である.肝細胞癌には肝細胞相で EOB の取り込み低下は認められないが,A-P シャントの部分には肝細胞相で EOB の取り込みが認められる.MRI では患者被曝がないこと,1 回の検査で動脈相と肝細胞相との撮像が可能であるという EOB の特性を考慮すると,EOB を使

用したダイナミック MRI は多血性肝細胞癌の診断を行う上で,特に HPL との鑑別に有用であるという点で,これまでの多血性肝細胞癌診断の流れを覆すことが期待される.

従来の細胞外液性 MRI 造影剤を用いたダイナミック MRI と比較して問題となるのは,EOB の投与量の少なさである.EOB の臨床投与量は従来の細胞外液性 MRI 造影剤の 1�2 である.EOBを用いたダイナミック MRI における肝臓の造影効果は,理論上 Gd-DTPA の約 44% とする報告31)

もあり,従来の細胞外液性 MRI 造影剤と比較して背景肝実質と多血性肝病変のコントラストが低下する可能性がある.以前われわれは,パラレルイメージング法を用いると多血性肝細胞癌のcontrast-to-noise ratio が高かったということを報告32)しており,パラレルイメージング法を併用することで EOB を使用した場合のコントラストの低下を補える可能性はある.Figure 4はパラレル

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Figure 3. 62歳,男性.A-Pシャント症例 a:単純CT,b:ダイナミックCT動脈相,c:ダイナミックCT平衡相,d:造影前MRI脂肪抑制T2強調画像,e:EOBダイナミックMRI動脈相,f:EOBダイナミックMRI肝細胞相. ダイナミックCT動脈相でS3,S8に全体が強く造影される結節様の領域を認める(白矢印).EOB肝細胞相では同部にEOBの取り込みを認める.経過観察でも変化なく,A-Pシャントの所見である.

Figure 4. 66歳,男性.微小肝細胞癌症例 a:CTAP,b:CTHA早期相,c:CTHA後期相,d:造影前MRI脂肪抑制T2強調画像,e:造影前MRI T1強調画像,f:EOBダイナミックMRI動脈相,g:EOBダイナミックMRI平衡相,h:EOBダイナミックMRI肝細胞相. CTAPおよびCTHAでは病変は指摘できない.EOBダイナミックMRI 動脈相で肝S6に全体が強く造影される5mmのSOLを認める(白矢印).平衡相でのwashoutは認めないが,肝細胞相で取り込み低下を認め,肝細胞癌の所見である(なお,この症例は固有肝動脈よりCTHAを施行したが,左肝動脈が左胃動脈から分岐していたため,CTHAで肝左葉外側区域に造影効果を認めない).

イメージング法を併用して診断し得た,微小肝細胞癌症例である.CTAP�CTHA で検出が困難であった病変が,EOB ダイナミック MRI では明瞭

に描出されている.VI EOBのピットフォール

EOB 肝細胞相においては,A-P シャント部分

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Figure 5. 59歳,女性.原因不明の肝機能障害 a, f:造影前MRI脂肪抑制T2強調画像,b, g:拡散強調画像(b値=800),c, h:EOBダイナミックMRI動脈相,d, i:EOBダイナミックMRI肝細胞相,e, j:SPIO造影T2*強調画像. 脂肪抑制T2強調画像で肝右葉に多発する高信号域を認める.この高信号域に一致して拡散強調画像での拡散低下,ならびにEOBダイナミックMRI動脈相での均一な造影効果増強と肝細胞相でのEOBの軽度の取り込み低下を認めた.後日SPIO-MRIを施行したところ,SPIOの取り込み低下は認められず,急性肝炎と診断した.

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には EOB が取り込まれるため肝細胞癌との鑑別はほぼ可能であるが,門脈腫瘍栓により長期間血流障害を呈している場合33)や急性の肝障害が生じている場合(Figure 5)には,肝細胞機能低下により EOB の取り込み低下を呈することがある.しかしながら,多くの場合には臨床所見や他のモダリティーとの比較から,腫瘍性病変との鑑別は可能と思われる.

おわりにEOB を用いた肝画像診断について,われわれ

の経験した症例を交え概説した.いちばんの問題は,EOB が境界・前癌病変と早期肝細胞癌との鑑別にどこまで有用かという点であり,症例の蓄積と今後の検討が期待される.

文 献

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18)Ichikawa T, Saito K, Yoshioka N, et al : Detectionand characterization of focal liver lesions : A Japa-nese phase III, multicenter comparison betweengadoxetic acid disodium-enhanced magnetic reso-nance imaging and contrast-enhanced computedtomography predominantly in patients with he-patocellular carcinoma and chronic liver disease.Invest Radiol 45 ; 133―141 : 2010

19)総合製品情報概要 EOB・プリモビストⓇ注シリンジ,バイエル薬品株式会社,大阪,35―36 : 2008

Page 9: 肝細胞特異性MRI造影剤(Gd-EOB-DTPA)を用いた 肝細胞癌画像 …

平成22年 5 月 711

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20)Motosugi U, Ichikawa T, Sou H, et al : Liver pa-renchymal enhancement of hepatocyte-phase im-ages in Gd-EOB-DTPA-enhanced MR imaging :which biological markers of the liver function af-fect the enhancement? J Magn Reson Imaging30 ; 1042―1046 : 2009

21)Kim SH, Kim SH, Lee J, et al : Gadoxetic acid-enhanced MRI versus triple-phase MDCT for thepreoperative detection of hepatocellular carci-noma. AJR Am J Roentgenol 192 ; 1675―1681 :2009

22)Lee JY, Kim SH, Jeon YH, et al : Ferucarbotran-enhanced magnetic resonance imaging versusgadoxetic acid-enhanced magnetic resonance im-aging for the preoperative detection of hepatocel-lular carcinoma : initial experience. J Comput As-sist Tomogr 34 ; 127―134 : 2010

23)Krinsky G : Imaging of dysplastic nodules andsmall hepatocellular carcinomas : experience withexplanted livers. Intervirology 47 ; 191―198 : 2004

24)佐野勝廣,市川智章,松田政徳,他:肝細胞胆道系 MRI 造影剤による診断 ③境界病変.肝胆膵画像 11 ; 513―517 : 2009

25)Huppertz A, Haraida S, Kraus A, et al : Enhance-ment of focal liver lesions at gadoxetic acid-enhanced MR imaging : correlation with histopa-thologic findings and spiral CT--initial observa-tions. Radiology 234 ; 468―478 : 2005

26)Narita M, Hatano E, Arizono S, et al : Expressionof OATP1B3 determines uptake of Gd-EOB-DTPA in hepatocellular carcinoma. J Gastroen-terol 44 ; 793―798 : 2009

27)科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班:科学的根拠に基づく肝癌診療

ガイドライン 2005 年版,金原出版,東京,50―66 :2005

28)Ueda K, Matsui O, Kawamori Y, et al : Differentia-tion of hypervascular hepatic pseudolesions fromhepatocellular carcinoma : value of single-leveldynamic CT during hepatic arteriography. JComput Assist Tomogr 22 ; 703―708 : 1998

29)Kim HC, Kim TK, Sung KB, et al : Preoperativeevaluation of hepatocellular carcinoma : com-bined use of CT with arterial portography andhepatic arteriography. AJR Am J Roentgenol180 ; 1593―1599 : 2003

30)Sun HY, Lee JM, Shin CI, et al : Gadoxetic acid-enhanced magnetic resonance imaging for differ-entiating small hepatocellular carcinomas (�2 cmin diameter) from arterial enhancing pseudo-lesions : special emphasis on hepatobiliary phaseimaging. Invest Radiol 45 ; 96―103 : 2010

31)上野彰久,谷本伸弘:肝細胞胆道系 MRI 造影剤の特徴.肝胆膵画像 11 ; 485―492 : 2009

32)Tanaka O, Ito H, Yamada K, et al : Higher lesionconspicuity for SENSE dynamic MRI in detectinghypervascular hepatocellular carcinoma : analysisthrough the measurements of liver SNR andlesion-liver CNR comparison with conventionaldynamic MRI. Eur Radiol 15 ; 2427―2434 : 2005

33)村上卓道,岡田真広,熊野正士,他:肝細胞胆道系 MRI 造影剤で肝画像診断の one-stop shop-ping は 可 能 か? 肝 胆 膵 画 像 11 ; 539―551 :2009

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論文受領,平成 22 年 2 月 25 日受理,平成 22 年 3 月 19 日

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