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患者さま 患者さま い っしょ に取り組む に取り組む SCD 脊髄小脳変性症 脊髄小脳変性症 治療 監修 京都府立医科大学大学院医学研究科 総合医療・医学教育学 教授 山脇 正永 先生 医薬情報研究所/株式会社エス・アイ・シー、公園前薬局(東京都)薬剤師 堀 美智子 先生

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Page 1: SCD(脊髄小脳変性症脊髄小脳変性症)...想定作用機序 タルチレリン タルチレリン 生体内で安定 中枢神経系TRH受容体に結合 運動失調タルチレリンに対する改善作用・回復促進作用

患者さま患者さまといっしょに取り組む に取り組む S C D(脊髄小脳変性症脊髄小脳変性症)治療

監修京都府立医科大学大学院医学研究科 総合医療・医学教育学 教授 山脇 正永 先生

医薬情報研究所/株式会社エス・アイ・シー、公園前薬局(東京都) 薬剤師 堀 美智子 先生

Page 2: SCD(脊髄小脳変性症脊髄小脳変性症)...想定作用機序 タルチレリン タルチレリン 生体内で安定 中枢神経系TRH受容体に結合 運動失調タルチレリンに対する改善作用・回復促進作用

は じ め に ( 薬 剤 師 の 皆 様 へ )

脊髄小脳変性症(SCD:Spinocerebellar degeneration)は、運動失調を主な症状とする神経変性疾患の総称です。なかでも小脳性運動失調が多く、

後索性運動失調や痙性対麻痺がみられることもあります。発症時期がわからないほど穏やかに運動失調があらわれ、季節による変動や日ごと

の変化はあるものの、ゆっくりと進行する原因不明の病気です。

体幹や下肢の運動失調ではふらつき歩行、上肢の運動失調では巧緻運動障害、企図振戦、構音障害および嚥下障害、眼筋の運動失調では霧視、

複視、動揺視が出現します。孤発性の多系統萎縮症と呼ばれる一群の疾患では自律神経障害が著しく、これにより ADL(日常生活動作)が低

下します。また、遺伝性の一部の疾患では、末梢神経障害や精神症状、てんかん発作を引き起こすなど、病型によっては多様な症状が加わります。

SCD には、現段階では原因療法となる治療法がありません※。しかし、現在ある薬剤を効果的に使用することで、症状を改善させるとともに、

病気の進行を抑え、患者さまの QOL(生活の質)や ADL を維持・改善することが可能です。そのために、薬剤師に患者さまへ薬に関する情報

提供や服薬の重要性の訴求、日常生活でのアドバイスをしていただくことが非常に重要になります。

この『患者さまといっしょに取り組む SCD(脊髄小脳変性症)治療』は、薬物療法やセレジストの飲み方、症状への対応などについて、わか

りやすく説明できる解説資料として、ご用意いたしました。特に、POS(Problem-oriented system)を考慮し、患者さまが抱えている問題点を

探り出す手段、患者さまの服薬および病態を管理する手段にもご利用いただければと思います。

また、「Problemを探り出す!」では、服薬指導時に想定される「問いかけ例」を挙げています。そこから患者さまの持つ本質的な問題点を導き出し、

解決法を見出す、そのようなきっかけになれば幸いです。

一人でも多くの患者さまおよび介護者さまが SCD と向き合い、少しでも有意義な生活をしていただくために、このサポート資料がその一助と

なることを願っています。ぜひ、ご利用ください。※ビタミン E単独欠乏性失調症のみ、ビタミン Eの大量投与により進行抑制が可能。

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C O N T E N T S

SCDの薬物療法

セレジストについて

S C D の症状に対する対 策

日 常 で のポイント

症状に応じた治療薬

セレジストの作用

セレジストOD錠について

用法・用量

セレジストの治療目的

1

2

3

4

5

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

歩行障害には

協調運動障害には

構音障害には

嚥下障害には

眼球運動障害には

自律神経障害には

6

7

8

9

10

11

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・

リハビリテーションの重要性

日常生活でのポイント

家族介護者さまの休息の必要性

12

13

14

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参考資料:嚥下状態チェックリスト 15

・・・・・・・・・・・・・・・・

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SCD の薬物療法は運動失調に対する治療が基本となりますが、患者さまにより症状が異なります。そのため、錐体外路症状(パーキンソニズム)、錐体路症状(痙縮)、自律神経症状に対しても、それぞれの症状に合わせて対症的に治療薬が用いられます。新規の患者さま、あるいは新規の薬剤が追加になった場合は、本表を服薬指導時にご使用ください。

<抗痙縮薬から末梢性筋弛緩薬へ変更になった例>  □手足の筋肉のつっぱりが強くなりましたか?   ▶ 痙縮による障害が強くなったと考慮   ▶ 病態の把握(痙縮に対する対策は「歩行障害には」⑥を参照)

<抗痙縮薬服用例>  □(痙縮が手の場合)物を持つことに不自由を感じませんか?(痙縮が足の場合)歩きづらいことはありませんか?  ▶ 筋弛緩作用による運動機能低下の有無の確認

<排尿困難のためα受容体遮断薬を処方している例>  □立ち上がったときに立ちくらみはありませんか?   ▶ 処方薬の再確認

症状に応じた治療薬

服薬指導時のチェックポイント

運動失調症状・・・

錐体外路症状・・・

自律神経症状・・・錐体路症状・・・・・・

現在、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH:Thyrotropin releasing hormone)であるプロチレリン酒石酸塩水和物と、TRH誘導体であるタルチレリン水和物(セレジスト®)が用いられています。〔セレジストの詳細は「セレジストについて」②~⑤を参照〕

L-dopa 製剤、ドパミン受容体作動薬が用いられます。なお、これらの薬剤は、抗パーキンソン病薬・抗パーキンソン症候群薬のため、SCDに保険適用はありません。

抗痙縮薬(筋弛緩薬)が用いられますが、筋弛緩による運動機能の低下が危惧されるため、注意を要します。

起立性低血圧例には交感神経作動薬を用います。重症の場合はフルドロコルチゾン酢酸エステルを用いることがありますが、起立性低血圧の保険適用はありません。排尿困難・尿閉例にはジスチグミン臭化物やα受容体遮断薬(α受容体遮断薬は SCD での保険適用はない)などを使用しますが、起立性低血圧例ではα受容体遮断薬の使用を避ける必要があります。尿意切迫・頻尿例では、平滑筋収縮抑制作用を有する薬剤により膀胱の異常収縮を抑制し、蓄尿機能を増加させますが、副作用として尿閉・排尿障害がみられることがあるため、観察を要します。

Problemを探り出す!

!Ⅰ

SCDの薬物療法

SCDの薬物療法 症状に応じた治療薬

症状に応じた治療薬

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症状に応じた治療薬

運動失調症状 ●歩行障害●四肢失調●構音障害 など

○甲状腺刺激ホルモン放出 ホルモン○セレジスト® [タルチレリン水和物]

○抗パーキンソン病薬

○筋弛緩薬

○自律神経調整薬

(TRH:Thyrotropin releasing hormone)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ ●起立性低血圧●排尿障害●発汗障害 など

●パーキンソニズム● 筋強剛● 動作緩慢● 姿勢反射の障害

●痙 縮

SCD では、患者さま個々の症状に合わせて、症状を和らげるお薬が用いられます。

筋力は正常であるにもかかわらず、運動の際に筋肉が協調して動かないために運動が円滑にできなくなる。

錐体路とは大脳からの運動の命令を伝達する経路で、ここが障害されると運動麻痺などの随意運動に関する異常が生じる。

汗の量や血圧など、身体の各部分でいろいろな調節を行っている自律神経の働きが乱れることによりさまざまな異常が生じる。

錐体外路とは主として大脳基底核などによる運動調節を示し、これが障害されると不随意運動が出現したり運動がスムーズにできなくなったりする。

錐体外路症状Ⅱ

錐体路症状Ⅲ

自律神経症状Ⅳ

SCDの薬物療法症状に応じた治療薬

1

すいたいがいろ

すいたいろ

(TRH誘導体)

けいしゅく

SCDの薬物療法 症状に応じた治療薬

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セレジスト(タルチレリン水和物)は、SCDの運動失調症状を改善する、唯一の経口剤です。

<新規でセレジストが処方された例>  □医師からどのような説明を受けましたか?   ▶ SCD の診断および告知の確認   ▶ 処方薬の十分な情報提供  (「用法・用量」④、OD錠については「セレジストOD錠について」③を参照)

<セレジスト既処方例>  □お薬はきちんと飲めていますか?   ▶ 服薬状況の把握(服用できていない場合、理由を確認)   ▶ セレジスト服用の意義を訴求   (「セレジストの治療目的」⑤を参照:グラフを使用して説明)

セレジストの作用

服薬指導時のチェックポイント

セレジストは、中枢神経系に分布する TRH の受容体に結合し、骨格筋や自律神経に重要な役割を果たすアセチルコリンや、運動に関する神経伝達物質であるドパミンなどのモノアミン神経系を活性化し、これらの遊離および代謝回転を促進させます。さらに、神経を伸張・保護させる神経栄養因子様作用により、神経細胞を活性化させて運動失調を改善すると考えられています。副作用の発現率は10%程度であり、主な副作用として、悪心、嘔吐、食欲不振、胃部不快感、めまい、頭痛、発疹、下痢などがあります。

Problemを探り出す!

想定作用機序

タルチレリン

タルチレリン

▶▶ ▶

生体内で安定

中枢神経系 TRH受容体に結合

タルチレリン運動失調に対する改善作用・回復促進作用

タルチレリン神経細胞の活性化 脳幹・小脳・脊髄

神経伝達物質 神経栄養因子様作用の遊離促進および 代謝回転促進

▶ ▶

▶アセチルコリンおよびモノアミン( )

セレジストの作用

セレジストについて

セレジストについて セレジストの作用

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セレジストの作用セレジストは、SCD の運動失調症状を改善するお薬です。

セレジストは、中枢神経系に広く分布する甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体に結合し、神経伝達物質の動きを活性化させ、また神経栄養因子様の作用※も関与して、神経細胞の活性化が起こり、運動失調の改善あるいは回復を促進すると考えられています。

●セレジスト錠

中 枢 神 経 系脳

脊 髄

セレジスト

神経細胞の活性化

甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体

セレジストについてセレジストの作用

2

・神経伝達物質の動きを活性化・神経栄養因子様作用

セレジストについて セレジストの作用

※神経栄養因子とは神経細胞の成長や機能維持などに必要な因子であり、神経栄養 因子と同様の作用を発揮することを「神経栄養因子様作用」といいます。

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セレジストOD錠は口の中で容易に崩壊するため、嚥下障害でお困りの患者さま、あるいは胃瘻を造設した患者さまに適した薬剤です。

<服用しやすい剤形確認のための問いかけ例>

セレジスト O D 錠 に つ い て

嚥下運動は、脳幹を中心とする反射運動だけでなく、大脳機能、小脳機能が関与する複雑な運動です。

嚥下運動には、舌、口唇、咽頭の筋肉が関与し、左右 30 種類にも及ぶ筋群が正確に連続的な運動を行うことによって成立しています。

SCD では、これらの嚥下運動に関与する各筋の運動が不十分となり、嚥下障害を来します。

口腔内崩壊錠のセレジスト OD 錠は、舌の上で軽くつぶすと速やかに溶けるため、嚥下困難な患者さまに有用です。

唾液と一緒に飲み込むことができ、水なしで服用が可能です。

セレジスト OD 錠は非常に吸湿しやすい錠剤のため、服用直前にPTPシートから取り出してください。

Problemを探り出す!

□食べ物・水分など、飲み込みにくくありませんか?▶ 病態の把握▶ 嚥下障害に対する対策(「嚥下障害には」⑨、「参考資料:嚥下状態チェックリスト」⑮を参照)

<嚥下障害のある例> □併用薬の服用に、お困りの点はありませんか?▶ 処方薬の再確認 ▶ 嚥下障害に対する対策(「嚥下障害には」⑨、「参考資料:嚥下状態チェックリスト」⑮を参照)

準備期・口腔内保持力低下・送り込み低下

口腔期・軟口蓋拳上不良・鼻咽腔閉鎖不全 (嚥下圧低下)

咽頭期・喉頭拳上の タイミング不全・喉頭入口部閉鎖障害・咽頭収縮不全

セレジストOD錠について

セレジストについて

セレジストについて セレジストOD錠について

服薬指導時のチェックポイント!

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▶▶

セレジスト O D 錠 に つ い てセレジスト OD 錠は、「食べ物が飲み込みにくい」と感じる患者さまにも飲みやすいお薬です。

セレジスト OD 錠は、舌の上で軽くつぶすと速やかに溶けるので、唾液と一緒に飲み込むことができ、水なしで飲めます。

<注意>・やわらかいお薬ですので、欠けや割れが生じること があります。その場合は全量を服用してください。・非常に吸湿しやすいお薬ですので、飲む直前にシー トから取り出してください。

●セレジスト OD 錠

セレジスト OD 錠の崩壊の様子

3

セレジストについてセレジストOD錠について

0.5mL の水を滴下

5秒後

15 秒後

舌を上あごに押しつけると、薬はつぶれます。

セレジストについて セレジストOD錠について

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セレジスト、セレジストOD錠ともに、1日 2回、食後に経口投与します。セレジストOD錠は、水なしでの服用が可能です。用法・用量

服薬指導時のチェックポイント

【添付文書より】通常、成人にはタルチレリン水和物として 1回 5mg、1日 2回(朝、夕)食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

<用法・用量に関連する使用上の注意>(セレジスト OD 錠のみ) 本剤は口腔内で速やかに崩壊することから唾液のみ(水なし)でも服用可能であるが、口腔粘膜からの吸収により効果発現を 期待する製剤ではないため、崩壊後は唾液又は水で飲み込むこと。

Problemを探り出す!

用法・用量セレジストについて

<セレジスト既処方例> □飲み忘れることはありますか? ▶ 服薬状況の確認

□お薬が飲み込みにくいことがありますか? ▶ 嚥下障害の有無の確認  ▶ 嚥下障害に対する対策 (「嚥下障害には」⑨を参照)

セレジストについて 用法・用量

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用法 ・用量セレジスト・セレジスト OD 錠は、毎日 1 日 2 回、1錠ずつ飲んでください。

毎日、朝食後と夕食後(食後 30 分くらいまで)に1錠ずつ飲みましょう。※OD錠の場合は、水なしでも飲めます。

朝食後に一錠

夕食後に一錠

●自分の判断で、服用を中止しないようにしてください。

●飲み忘れた場合は、気がついたときにできるだけ早く飲んでください。ただし、次に飲む時間が 近い場合は、忘れた分は飲まないで 1回分を飛ばしてください (絶対に、2回分を一度に飲んではいけません)。

●薬を服用して異常を感じたときは、主治医あるいは薬剤師に相談してください。

注 意

用法・用量

4

セレジストについて

セレジストについて 用法・用量

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セレジストの治療目的は、症状の改善だけでなく、良好な ADL および QOL をより長く維持することです。服薬アドヒアランスが不良の患者さま、治療に不信感のある患者さまへの服薬指導時に、本グラフをご利用ください。

薬物療法の効果をさらにアップさせるためには、リハビリテーションが重要です。リハビリテーションを行っていますか?

セレジストの治療目的

服薬指導時のチェックポイント

SCD は、治療を行わなければ、確実に悪化していく疾患です。逆に、治療を行っても、症状の改善は対症的治療であって、SCD 自体の改善は望めません。したがって、患者さまは長期療養を余儀なくされることになります。

SCDを改善する確実な治療法がない現状では、病気の進行を抑制することがもっとも重要となります。したがって、SCDの治療の目的は、病気の進行を抑制し、できる限り ADL および QOL の低下を抑制することにあります。

セレジストによる治療も、少しでも「不変」の時期を維持させ、悪化の進行を抑制することで、患者さまの ADL および QOL を少しでも良好に、少しでも長く維持できることを目的としています。

運動失調が比較的軽度で、発症早期よりセレジストの投与を開始した症例では一時的に改善がみられることがあり、その場合は、さらに悪化するまでの期間を延長できると考えられています。

Problemを探り出す!

▶ リハビリテーションの推奨(「リハビリテーションの重要性」⑫を参照)

日常の過ごし方のポイントをご存知ですか?□▶ 日常生活でのポイントを訴求(「日常生活でのポイント」⑬を参照)

セレジストの治療目的

セレジストについて

セレジストについて セレジストの治療目的

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根治療法のない疾患において、進行を抑制することは

重要です。

▶ ▶ ▶

▶ ▶ ▶

セレジストの治療目的セレジストを服用することで、ADL(日常生活動作)や QOL(生活の質)を維持する期間の延長が期待できます。

改善

低下

経過

自然経過

セレジスト服用開始

運動失調が比較的軽症で発症早期からセレジストを服用した場合、一時的に改善が認められるケースもあります。

▶ ▶

ADL

QOL

セレジスト服用後

5

セレジストについてセレジストの治療目的

セレジストについて セレジストの治療目的

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歩行困難になっても、筋力を維持し、自力移動が可能な期間を延ばすために、積極的に歩くことをお勧めします。歩行障害には

服薬指導時のチェックポイント

はじめにあらわれる症状としては起立・歩行に関するものが多く、もっとも初期では方向変換するときの不安定感やよろめきの自覚症状がみられます。しかし、周囲の人は気付かないことが多いようです。

その後、次第に歩行が不可能となり、やがて坐位を維持することも不可能で臥床状態となり、寝返りも不可能となります。

このような起立・歩行に関する症状の進行を抑制するためには、筋力の維持を心掛けることが重要です。歩行時は、二次的障害を考慮して、頭部にヘッドギアーをかぶったり、杖や手すり、歩行器、老人車などを利用し、転倒には十分注意します。

車椅子を利用するようになっても、介護者さまが見守れるときは歩行や立位保持訓練を行い、筋力維持に努めることが大切です。また、ふらつき歩行では、底の重い重荷靴や、大腿・膝などに緊縛帯(サポーターでも代用可)を用いると、ふらつきが軽減されます。

Problemを探り出す!

自宅などで、歩行でお困りのことはありませんか?□▶ ユニバーサルデザインの検討 

歩行に支障はありませんか?□▶ 服薬アドヒアランスの確認 ▶ リハビリテーションの推奨(「リハビリテーションの重要性」⑫を参照)

歩行障害にはSCD の症状に対する対策

SCD の症状に対する対策 歩行障害には

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転倒には十分気をつけましょう!

歩行障害には歩行が困難になっても、積極的に歩くことで筋力が維持され、自力移動が可能な期間が長くなります。

●頭部にヘッドギアーを かぶる

●杖をつく

●廊下・階段に手すりを 取り付ける

●歩行器を 使用する

●老人車・歩行車などを 使用する

●底の重い 重荷靴を履く

●緊縛帯(サポーターでも代用可) を用いる

ヘッドギアーをかぶったり、杖や歩行器を利用して、積極的に歩きましょう。

ふらつく場合は、底の重い重荷靴を履いたり、膝などに緊縛帯(サポーターなど)を用いると、少し安定します。

車椅子を使用するようになっても、筋力維持のために、介護者の方が見守る中で、歩行や立位保持訓練を行うことをお勧めします。

6

SCD の症状に対する対策歩行障害には

SCD の症状に対する対策 歩行障害には

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協調運動障害(ディスプラクシア)は、歩行障害と同様に廃用性筋萎縮を起こしやすいため、積極的な運動や ADL 訓練をお勧めします。

協調運動障害には

服薬指導時のチェックポイント

上肢の協調運動障害の症状は、動作が遅くなることから始まり、次第に手指の巧緻運動障害がみられるようになります。握力はありますが、左右の手指が協調していないためにボタンがかけられない、罫線どおりに筆記できない、筆圧をコントロールできないなどの弊害がみられます。また、食べ物をうまく口へ運べない、自分で歯を磨けないなどの企図振戦がみられ、ADL が低下します。

協調運動障害が軽いうちは、腕や肘をどこかに固定すると、正確な動作を行うことができます。揺れが大きくなった場合は、上腕や肘に緊縛帯をしたり、おもり効果のあるバンドを上腕や前腕、あるいは手首に装着すると動作がしやすくなります。おもりを着けて動作することで、筋力アップの効果も期待できます。

また、SCD では疾患そのものによる筋力低下はありませんが、失調による歩行障害や上肢の巧緻運動障害のため、座り続けたり、臥床に近い状態になると廃用性筋萎縮が起こり、全身的に軽度の筋力低下を生じます。筋力低下により、さらにふらつきが悪化したり、細かな動作が不可能となっていくため、日常生活をできる限り自力で行っていくなど、日々の運動が症状の進行抑制につながります。

Problemを探り出す!

日常での動作や作業は、患者さま自身でできていますか?□▶ リハビリテーションの推奨

▶ ユニバーサルデザインの検討 

ボタンを掛けにくいことがありませんか?□▶ 服薬アドヒアランスの確認▶ リハビリテーションの推奨(「リハビリテーションの重要性」⑫を参照)

(「リハビリテーションの重要性」⑫を参照)

協調運動障害にはSCD の症状に対する対策

SCD の症状に対する対策 協調運動障害には

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自分のことは

自分でする!

思ったように動かせるよ

協調運動障害には手の揺れが大きくなったときは、上腕や肘に緊縛帯をしたり、おもり効果のあるバンドなどを装着すると、動作がしやすくなります。

●壁など、どこかに固定すると 動かしやすくなる

自分のことは自分でやってみましょう

●おもりなどを利用して、 揺れを小さくする

●入 浴 ●歯みがき ●着替え

協調運動障害の軽いうちは、腕や肘をどこかに固定すると、正確な動作を行うことができます。

手の揺れが大きくなったときは、上腕や肘に緊縛帯(サポーターなど)をしたり、少し重みのあるバンドを上腕や前腕あるいは手首に装着すると、動作がしやすくなります。

おもりを着けて動作することで、筋力アップの効果も期待できます。

自分でできることをすることは、リハビリテーションにもなります。

<それぞれ別々の動作を一つにまとめることができない障害>

7

SCD の症状に対する対策協調運動障害には

SCD の症状に対する対策 協調運動障害には

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聞き手となる方の根気強く聞こうとする姿勢が、何よりも患者さまの発声意欲を掻き立てます。会話は慌てずゆっくりと、会話が不自由となれば筆記や文字盤を利用して、コミュニケーションをとります。

構音障害には

服薬指導時のチェックポイント

構音障害の初期では、舌・喉の筋力および呼吸機能は正常ですが、双方が協調して動かないため、言葉が緩徐となり、呂律が回らなくなります。進行すると、言葉が途切れる断綴性言語、言葉の最初や最後が爆発するような発声になる爆発性言語がみられ、音が連なって聞き取れなくなります。

障害が軽度な場合は、一音一音をはっきりと大きな声で発音し、できる限り多く話すようにします。相手から何度も聞き返されると話すことに意欲を失い、会話に消極的になってしまうという二次的問題が発生するため、周囲の気配りも重要となります。

言語療法士による訓練もあり、発声発語のための呼吸法や、唇・舌・顔面などの動きをよくするための運動、発語の明瞭度を上げるための話し方を練習することで、発語機能の維持あるいは発語機能の低下の遅延が可能です。

障害が進行して会話が不自由な状態になる頃には、四肢の失調も進み、筆談も不可能となっていくため、意思の疎通は文字盤やパソコンなどを用いたコミュニケーション手段を確保することが重要になります。症状がかなり進行し、意思疎通が難しくなってからの新たなコミュニケーション手段の習得は患者さまにとって大きな負担となるため、早い段階からコミュニケーション手段の習得を考慮すべきでしょう。

Problemを探り出す!

言葉が途切れたり、話そうとすると、声が思った以上に大きくなったりすることはありませんか?

▶ 障害の進行状態の把握 

話しづらいことはありませんか?□▶ 服薬アドヒアランスの確認 

構音障害にはSCD の症状に対する対策

SCD の症状に対する対策 構音障害には

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いつまでもコミュニケーションを取り続けましょう。

あせらず ゆっくり・・・

構音障害には一音一音をはっきりと大きな声で発音し、できる限り多く話すようにしましょう。

患者さまは

話し相手は

●一音一音をはっきりと大きな声で発音する●あせらずゆっくり話す●できる限りたくさん話す●紙に書く●指文字を使ったり、ジェスチャーを取り入れる●コミュニケーション代替機器 (トーキングエイドなど)やパソコンを利用する●文字盤を指差す●透明文字盤を目で追う●うなずきや閉眼などの合図を返す

●話そうとする気持ちを理解して、じっくり聞く●一語一語、区切りごとに確認してあいづちを返す●質問を工夫し、「はい」「いいえ」など 簡単に答えられるようにする●表情を見ながら問いかけをする

<うまく発音できない障害>

軽度

重度

●症状に応じてコミュニケーションの工夫をしましょう

8

SCD の症状に対する対策構音障害には

ありがとう

SCD の症状に対する対策 構音障害には

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食形態の工夫や食事でのポイントを実行することで、家族との食事を楽しめたり、美味しいものを味わったり、むせることなく穏やかに食事をとることができます。

嚥下障害には

服薬指導時のチェックポイント

嚥下障害は、構音障害と並行して進行します。初期では、食べ物を早く飲み込めなくなったり、急いで食べるとむせたりします。やがて上肢の失調も関与し、食事に時間がかかってしまうため、現実的に食事をとれなくなることもあります。

食事でのポイントとして、食前に嚥下体操を行うことを勧めます。上半身と口腔周囲筋のストレッチにより、食べ物を飲み込みやすくなります。食事中はあわてず、少量をよく噛んで、ゆっくり飲み込むようにします。また、食べていることに集中すると、むせにくくなります。食形態も状態に応じて、米飯を粥にする、おかずを刻む、すりつぶす、とろみを付けるなど、工夫するとより飲み込みやすくなります。食後は、食べ物の逆流予防のために、しばらくは前かがみや横臥しないようにします。

食形態の工夫をしても飲食が難しい場合は、経管栄養や胃瘻などを導入する場合があります。

服薬については、錠剤での服用が可能な患者さまであれば、錠剤をゼリー(体温で溶けるゼラチンを使用しているもの)に埋め込み、スプーンでそのまま飲み込む方法があり、安全で有効な方法とされています。

嚥下機能は栄養摂取に影響し、患者さまの体力を左右するだけでなく、食の楽しみにも影響します。また、誤嚥は窒息や肺炎のリスクを伴うため、ADL および QOL の面からも、嚥下障害に対する対策は重要となります。

Problemを探り出す!

最近、食事中にむせたことはありませんか?□▶ むせの頻度の確認 ▶ 誤嚥性肺炎の疑いの有無 

食べ物やお薬など、飲み込みにくいことはありませんか?□▶ 服薬アドヒアランスの確認▶ 剤形の再確認

嚥下障害にはSCD の症状に対する対策

SCD の症状に対する対策 嚥下障害には

「参考資料:嚥下状態チェックリスト」⑮で、患者さまの嚥下状態を確認しましょう。1つでも「はい」に当てはまる項目がある場合は、嚥下障害に対する注意が必要です。

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ゼリー

嚥下障害にはむせやすくなったら、誤嚥※しないようにゆっくりと飲み込み、食事にも工夫してみましょう。

食事前 ●嚥下体操*をしましょう。

●錠剤をゼリー※に埋め込む

●そのまま飲み込む

食事後 ●食後は、胃から食べ物が逆流することがあるため、誤嚥の危険性があります。 しばらくは、前かがみや横にならないようにしましょう。

食事中 ●食べること、口の中に食べ物があることに注意を向けましょう。●一口の量は少なめにし、よく噛んでゆっくり飲み込みましょう。●きちんと飲み込んでから、次の食べ物を口に入れましょう。●むせたときは、咳をして出しましょう。

<食べ物などがうまく飲み込めない障害>

●食事でのポイント

●服薬でのポイント

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SCD の症状に対する対策嚥下障害には

①深呼吸して

●細かく刻む ●とろみを付ける

②首を左右に倒したり回したり ③肩をすくめて落として、 背伸びして

④頬をふくらましたり すぼめたり(2、3回)

⑤舌を出して引いて 口の左右をなめて(2、3回)

⑥息がのどにあたるように強く吸って、 止めて3つ数えて吐いて

⑦「パパパパ」「ララララ」「カカカカ」 を ゆっくり発音して深呼吸しましょう

嚥下障害のある患者さまにおすすめの方法

*聖隷嚥下チーム:嚥下障害ポケットマニュアル第3版、医歯薬出版、2011

※唾液や食べ物が誤って 気管に入ること。

細かく刻んだり、とろみを付けたり、食べやすい工夫をしましょう。

SCD の症状に対する対策 嚥下障害には

※ゼリーは、市販の服薬補助ゼリーや体温で溶ける ゼラチンを使用しているゼリーを使用します。

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眼球運動障害に対しては、眼筋を鍛えることが必要です。眼筋運動をして、視覚能力を維持できるようにします。眼球運動障害には

服薬指導時のチェックポイント

眼球運動障害でもっとも注目されるのは、眼球振盪(眼振)です。眼振は、振幅が大きい場合に動揺視が起きやすく、振幅が小さい場合には霧視が起きます。 動揺視の患者さまは、それほど多くありません。

また、複視は、眼振の症状がはっきりと出ていない場合でも、左右の眼筋の筋トーヌス※に差を有するときにみられます。

複視の患者さまでは、視力が十分であるにもかかわらず、段差が見えないなどの支障を来します。複視では、馴れの要素が大きく、初発症状で強く複視を訴えても、1 週間後には良くなってきたという患者さまが多くみられます。しかし、複像検査をすると、実際にはほとんど改善していないことがあるため、注意が必要です。

いずれの症状も眼筋を鍛えることが必要なので、遠くと近くを交互に見るなどして、できる限り目の筋肉を多く動かし、視覚能力を維持できるようにします。

複視には、特殊なレンズを用いた眼鏡が有効なこともあります。さらに、手術による複視の改善もありますが、効果には個人差がみられます。

※骨格筋が常に一定の緊張を保っている状態。小脳失調では筋トーヌスが低下し弛緩した状態になる。

Problemを探り出す!

二重に見えるという症状が、ひどくなってきていませんか?□▶ 病態の把握

 

物はきれいに見えていますか?□▶ 服薬アドヒアランスの確認

眼球運動障害にはSCD の症状に対する対策

SCD の症状に対する対策 眼球運動障害には

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眼球運動障害には目の筋肉を鍛えると、見る力を保てるため、早いうちから目の運動をしましょう。

●こんなふうに見えることはありませんか?

遠く 近く

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SCD の症状に対する対策眼球運動障害には

遠くと近くを交互に見ることで、目の筋肉を鍛え、見る力を保つようにしましょう。

揺れて見える

動揺視 霧 視 複 視

ぼやけて見える 二重に見える

SCD の症状に対する対策 眼球運動障害には

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自律神経障害で多くみられる症状は排便障害や発汗障害ですが、対策でもっとも重視すべき症状は、起立性低血圧と排尿障害です。多くは対症的な薬物療法が有効ですが、適切な対策も大切です。

自律神経障害には

服薬指導時のチェックポイント

Problemを探り出す!

排尿の回数が増えたり、尿が出にくくなったなどはありませんか?□▶ 服薬アドヒアランスの確認▶ 処方薬の確認

 

立ちくらみや、食後にめまいなどはありませんか?□▶ 服薬アドヒアランスの確認▶ 処方薬の確認

【起立性低血圧】 夏期や急な気温、湿度の上昇により、起立性低血圧を引き起こすことがあります。初期では浮遊感があらわれ、進行すると失神することがあります。SCD の病型によっては、食後に起坐性低血圧と食事性低血圧を併発することがあり、危険を伴います。

【排尿障害】 SCD の排尿障害では、蓄尿障害(頻尿、尿意切迫、尿失禁)および排出障害(排尿困難、残尿、尿閉)の両者が、程度に差はあるものの、しばしば組み合わさってあらわれる場合があります。排尿を促すために用手圧迫法※を行いますが、薬物療法を行っても十分な効果がなく、中等度以上の排尿障害の場合は、導尿や膀胱瘻を施行します。

【排便障害】 腸管運動が不安定なため、下痢あるいは便秘、または両者を繰り返す場合があります。便秘は、繊維質(水溶性と非水溶性の両方。サプリメントの活用も可)の多い食事をとる、水分を多めにとるなどの工夫により、改善されます。便秘には、腹部マッサージも効果的です。

【発汗障害】 発汗低下がみられます。局所的にみられる発汗低下は、代償的に正常な部位での発汗過多が生じるため、体温上昇を来すことはありません。全身性発汗障害が強い場合は、夏期に熱中症によるうつ熱で体温の上昇を起こすことがあるため、冷房を利用して室温を 23 ~ 25℃に保つ必要があります。

・・・・・・・・・

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※排尿後あるいは排尿時に下腹部を手で圧迫して排尿を促す。◎排尿日誌への記録を推奨

◎排便日誌への記録を推奨

自律神経障害にはSCD の症状に対する対策

SCD の症状に対する対策 自律神経障害には

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15°~20°

30°

自律神経障害にはさまざまな自律神経障害が起こり得るため、それぞれの対策を行い、症状の悪化を防ぎましょう。

●起立性低血圧の対策 ●排尿障害の対策※

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SCD の症状に対する対策自律神経障害には

尿が出にくい場合は、トイレに座った状態や、横になった状態(ベッドを 30°くらい上げる)で下腹部を押してみましょう。

弾性ストッキングの使用は、下肢の血液がたまるのを防ぐのに有効です。きつく締めるため、着脱はしづらいかもしれません。

●排便障害の対策※

便秘には、食事の工夫(繊維質[水溶性と非水溶性の両方。サプリメントの活用も可]の多い食事や水分を多めにとるなど)や、おなかのマッサージが効果的です。

おなかのマッサージおへそから始めてやわらかく「の」の字を描くようにマッサージします。

●発汗障害の対策夏の暑い時期に、全身に発汗低下が強くあらわれているときは熱中症などに注意し、冷房で室温を 23 ~ 25℃に保つようにしましょう。

食事のあとは、しばらく体を横にします。❺

❷と❸は歩行障害のときにも有効で、とくに初期の場合に効果があります。

腹部で緊縛すると、起立性あるいは起坐性低血圧に効果があるため、腹帯などできつめに締めます。

睡眠時に、体の上部を 15°~ 20°ほど持ち上げた位置を保つと、血圧の上昇に関連したホルモンが分泌しやすくなるといわれています。

寝ている状態から起き上がるときは、両下肢の運動をしてから、ゆっくりと起きましょう。

※嚥下障害がある場合は、食後、すぐに横にならない ように注意してください。

SCD の症状に対する対策 自律神経障害には

※排尿日誌・排便日誌をご利用ください。 日誌については、薬剤師にお問い合わせください。

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SCD では薬物療法に加えリハビリテーションを行うことにより、ADL および QOL の向上が期待でき、廃用症候群の改善も可能です。

リハビリテーションの重要性

Problemを探り出す!

自分でできることは自分で行っていますか?□▶ 運動量の把握 ▶ 自分自身で動く意義

 

リハビリテーションでつらい運動は何ですか?□▶ 障害の把握

1日どの程度、運動していますか?□▶ 運動量の把握 ▶ 病態の把握

(「協調運動障害には」⑦の『自分のことは自分でやってみましょう』を参照)

服薬指導時のチェックポイント

SCD では病気の進行とともに、日常生活の多くのことが困難になってきます。そのため、動く機会が減ることにより、廃用症候群を引き起こすおそれがあります。廃用症候群を予防するためにも、薬物療法に加えて、日常生活でも ADL および QOL の向上を目指したリハビリテーションが重要となります。

SCD では、ADL の維持および向上と介助負担軽減のために、病期に応じた動作の工夫や上手な介助法を体得することで、QOL の向上も期待できます。SCD のリハビリテーションは、脳卒中のように、一定期間集中して訓練を行い、症状の改善を図るリハビリテーションとは異なります。自宅でできるリハビリテーションのプログラムを専門病院(SCDに長けた専門病院)で指導してもらい、在宅療養で日々実践することで機能維持を図るのが、SCDのリハビリテーションです。

リハビリテーションで何よりも大切なことは、患者さま自身の前向きな姿勢です。その姿勢を持ってリハビリテーションや日常動作に取り組むことで、症状をより改善させることができます。

また、介護者さまのあたたかい支援も大切です。心のこもった「声掛け」や「少しの手助け」で、患者さまは生きがいを持って生活することができ、より積極的な社会参加も可能となります。

リハビリテーションの重要性

日常でのポイント

日常でのポイント リハビリテーションの重要性

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寝たきり

リハビリテーションの重要性SCD の治療では、薬物療法に加え、リハビリテーションを行うことで廃用症候群※を予防し、ADLやQOL の向上を目指します。

脊髄小脳変性症の治療 廃用症候群での悪循環

歩行困難などで次第に体を動かさなくなると廃用症候群となり、さらに ADL や QOL の低下がみられることがあります。

廃用症候群を予防するためにも、筋力訓練、バランス訓練などのリハビリテーションが大変重要です。

日常でのポイントリハビリテーションの

重要性

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※安静にしている間に身体機能や精神機能が低下した結果、筋力低下、 意欲の低下、心肺機能低下など、さまざまな症状があらわれること。

ADL(Activities of daily living)

日常生活動作

QOL(Quality of life)

生活の質

薬による治療 リハビリテーション

▶ 意欲の低下、うつ状態(精神機能の廃用症候群)

筋力低下、バランス能低下(易転倒性)

(骨格系の廃用症候群)

持久力の低下(心肺系の廃用症候群)

▶ ▶

寝たきり運動不足

活動の低下

日常でのポイント リハビリテーションの重要性

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SCD の治療は長期療養となるため、ポイントをおさえて、日常生活を有意義に過ごすことが重要です。日常生活でのポイント

Problemを探り出す!

日常、好んで行っていることはありますか?□

服薬指導時のチェックポイント

歩行が困難になっても、できる限り外出するよう心掛けます。散歩や旅行、観劇など、社会との交流を持つようにすることも大切です。リラックスしたり、会話を楽しむことは、病状を軽くする効果があります。

また、できる限り多くの趣味を持つことも効果的です。例えば、カラオケは発声のリハビリテーションにもなります。

日常では、身の回りのことはできる限り、患者さま自身でするよう勧めます。患者さま自身で行うことは、リハビリテーション効果にもつながります。もちろん、運動療法士の指導によるリハビリテーションへ積極的に参加することも重要です。

飲酒については、飲み過ぎはアルコール性小脳萎縮症の原因となるため、「ふらつき」がひどくならない程度に抑えます。たばこは、SCDの一部で、喫煙後に失調症状が一時的に増強することがあるため、注意が必要です。

<喫煙例>   □1日何本くらい、たばこを吸いますか? ▶ 喫煙量の把握 ▶ 失調症状増強の有無の確認

日常生活でのポイント

日常でのポイント

日常でのポイント 日常生活でのポイント

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日常生活でのポイント「前向きで、有意義な日常生活を送っていこう」という気持ちを持ち、無理なく、自分のペースで過ごしましょう。

日常でのポイント日常生活でのポイント

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外出する リラックスする 家族や親しい方と楽しく過ごす

自分のことは自分でする

リハビリテーションに積極的に参加する

(運動機能を維持する効果があります)たばこ、アルコールは控える

(症状が悪化することがあります)

趣味を楽しむ

日常でのポイント 日常生活でのポイント

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近年、介護負担による介護者さまの疲弊が、問題視されています。SCD では介護が長期にわたるため、介護者さまに対し、時折リフレッシュをして新たな気持ちで介護することを勧めます。

家族介護者さまの休息の必要性

服薬指導時のチェックポイント

SCD は進行が緩徐で、病型によっては健常者と同程度の寿命の場合もあり、長期間の療養生活は余儀なくされます。したがって、介護者さまも長期にわたる介護となり、負担が増大すると考えられます。そのような介護負担を軽減させるために、「レスパイトケア(介護の休息)」を介護者さまに理解していただき、活用を促していく必要があります。

家族介護者さまは「終わりの見えない」ストレスを抱えながら、精神的にも肉体的にも疲弊しています。しかし、日本におけるレスパイトケアの社会的認識は低いため、介護者さま自らが休息をとること、自分のために時間を使うことに、心理的に抵抗を持っている人が多いようです。そのような考えを払拭してもらい、長期化する介護のために、効率よくレスパイトケアを利用していただくことを勧めます。

介護者さまが心身ともにリフレッシュするためには、旅行などで非日常的な空間を感じたり、趣味を中断していれば再開したり、友達との会話で大いに笑ったり、リラックスしたり、介護のためにできなかったことを楽しむことが大切です。これは、後ろめたいものではなく、介護をしていくうえで、患者さまおよび介護者さまに必要なケアです。

レスパイトケアについては、患者さまの主治医(医療機関)へ相談することを勧めます(補助制度を制定している地方公共団体もあります)。

家族介護者さまの休息の必要性

日常でのポイント

日常でのポイント 家族介護者さまの休息の必要性

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家族介護者さまの休息の必要性ご自身のために、時間を使うことに後ろめたさを感じていませんか?

日常でのポイント家族介護者さまの休息の必要性

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持続的なストレス・精神的緊張状態

療養している家族の一時的な入院、滞在型の訪問看護を依頼

旅行したり、趣味を再開したり、十分な睡眠をとるなど、介護者さまご自身の時間を持ってみましょう。

介護者さまご自身もリフレッシュして、療養している家族の方とともに QOL を高めていきましょう。

慢性的な睡眠不足 慢性疲労

療養している家族の介護が最優先、休息なんて許されない、介護できるのは私しかいない、だから、がんばる。

過労、健康不良で、十分な介護ができなくなる。精神的にも滅入ってしまう。

レスパイトケア=「介護家族は休息をとる」という考えが浸透してきています。

日常でのポイント 家族介護者さまの休息の必要性

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症状の進行度を把握するためには、機能障害や能力障害の有無や程度を評価することが非常に重要です。特に嚥下障害においては、誤嚥性肺炎を伴った場合、生命予後および QOL の低下に大きく影響を及ぼすため、定期的に嚥下障害の進行度を評価し、症状に応じて対策をとることが求められます。

参考資料:嚥 下 状 態 チ ェ ッ ク リ ス ト

嚥下状態チェックリストの利用法について

服薬指導時に、本チェックリスト※の項目を患者さまに質問形式で確認し、嚥下機能の評価にご利用ください。

1つでも「はい」あるいは「ときどき」に当てはまる項目があった場合は、嚥下障害の可能性を考慮し、本編掲載の嚥下体操や食形態の変更、薬の飲み方(「セレジストOD錠について」③、「嚥下障害には」⑨を参照)などについてアドバイスします。

※「正しい服薬のために 患者さまと薬剤師とのコミュニケーションノート」にも同じチェックリストを掲載しています。患者さまあるいはご家族の方が評価すること も可能です。

参考資料:嚥下状態チェックリスト

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嚥下状態チェックリスト

「飲み込み」アンケート最近のことに関して、お答えください。「はい」、「ときどき」、「いいえ」のいずれかに、または該当する項目に○を付けてください。

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参考資料

① 現在どのような食事をしていますか?

② 入れ歯を使用していますか?

③ 肺炎になったことがありますか?

④ 最近、急に体重がへってきましたか?

⑤ 夜、咳き込んで目覚めることがありますか?

⑥ 食事の好みが変わりましたか?  (酸っぱい物が苦手になった等・具体的に)

⑩ 口の中がかわき、パサパサしたものが食べにくい  ことはありますか?

⑦ 食事時間が長くなってきましたか?( 分くらい)

⑧ 食後に咳き込むことがありますか?

⑨ 固い物が食べにくくなりましたか?(具体的に)

⑪ 口の中に食べ物が残ることがありますか?

常食・きざみ食・軟菜食・その他

はい(総入歯・部分入歯)・いいえ

はい・いいえ

はい・いいえ

はい・いいえ

はい・いいえ

はい・少し・いいえ

はい・少し・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

⑫ 口から唾液や食べ物がたれてくることが  ありますか?

⑬ 食べたり飲んだりする時、鼻に戻ったり、  出てくることがありますか?

⑭ 唾液や食べ物がのどに送り込みにくいことが ありますか?

⑮ 食事中にむせることがありますか?(具体的には?)

⑯ のどに痰がからんで困ることがありますか?

⑰ 飲み込む時に違和感があったり、  のどに残る感じがありますか?

 食べ物や酸っぱい液が、「うっ」と込み上げてくる  ことがありますか?

⑱ ストローやめん類が、吸いにくいことがありますか?

⑲ 声がかすれてきましたか?(ガラガラ声やかすれ声など)

⑳ 胸に食べ物が残る感じがありますか?

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

はい・ときどき・いいえ

1つでも「はい」に当てはまる項目がある場合は、嚥下障害に対する注意が必要です。

山脇正永ほか:内科専門医会誌 17、81、2005

参考資料:嚥下状態チェックリスト

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CD--336A-2012年3月作成